大阪桐蔭・松尾汐恩、正捕手の座を獲るための決意
2022 年ドラフト 1 位の横浜 DeNA ベイスターズ捕手・松尾汐恩が、3 年目を迎えて勝負の年を迎えている。高校野球の超名門・大阪桐蔭校で「最後の日本一」を知る 20 歳は、負のレッテルを吹き飛ばすことができるのか。

松尾汐恩、正捕手の座を獲るための決意
昨季、いくつかの“失敗”を喫したことも教訓にしながら、横浜 DeNA ベイスターズの松尾汐恩は 3 年目のキャンプを慎重に、じっくりと進めている最中だ。
「打つ方はいい感じで来ています」 それでも 1 クール目から手ごたえを感じているのは「バッティング」だと本人は高らかに口にする。
「打つ方はいい感じで来ています。1 月の自主トレから準備をしっかりやってきたつもりなので」 その言葉通り、とある日の打撃練習では鋭い当たりを連発し、順調な仕上がり具合をアピールしていた。アップで表情を見ていても、実に明るい。キャッチボールでは戸柱恭孝とペアを組むも 2 度ほど暴投してしまい、戸柱から「コラー!」と笑顔ながら“叱責”される場面もあった。
10 歳以上離れた先輩とも物おじせずにコミュニケーションを取れているのは、松尾の屈託のない性格と堂々とした姿によるところが大きい。さらにベイスターズという環境に、この 2 年間でしっかりと溶け込んでいる証でもあるのだろう。
大阪桐蔭の選手が「プロで伸び悩んでいる」?
13 年にドラフト 1 位で NPB 入りした森友哉(オリックス)の大活躍を最後に、「近年、大阪桐蔭高校出身の選手がプロで伸び悩んでいるのでは?」という声をちらほら聞く。
近年の大阪桐蔭で「黄金世代」とも呼ばれる 18 年の春夏連覇メンバーで、プロの世界での躍動を嘱望されてきた藤原恭大(ロッテ)や根尾昂(中日)、横川凱(巨人)らがなかなか期待ほどの活躍ができていない現状から、そういったネガティブな印象を抱く者が少なくないのかもしれない。
当時のエースだった柿木蓮(元日ハム)は、昨年ついに戦力外通告を受け、現役引退も発表している。
ただ、そんな声があがるのは、近年の大阪桐蔭が甲子園ですさまじい活躍を見せてきたことの裏返しでもある。
全国制覇こそ松尾が在籍した 2022 年春のセンバツまで遡るものの、その後も堅実に上位には顔を出し続けている。
高校生である以上、3 年で選手が入れ替わることや、飛ばないバットの導入といった環境面の変化があるなかで、これだけ安定して結果を残し、プロ選手を輩出できるのも西谷浩一監督の手腕の賜物ではあるのだろう。
昨年末、松尾は母校のグラウンドへ足を運んだ。
恩師の西谷監督にも挨拶したが、特に何を言われることもなく現状を報告したという。
「来年も頑張れよ、とだけ。自分だけ何かを言われたとか、そういうことも全くなかったですね」
何も言わなくても松尾なら分かっている。西谷監督は、そう思い敢えて何も言わずに教え子を見送ったのだろう。甲子園で 5 本の本塁打を放った、当時の不動の「扇の要」に対して、言葉の少なさこそがかえって信頼の裏返しでもあった。
「今年、正捕手の座を獲るつもりで」
チームは昨季、26 年ぶりの日本一に輝き、一層士気が高まっている。その中で、どう存在感を示していくか。20 歳の若武者は意気軒高だ。
「次世代がどうとかではなく、今年、正捕手の座を獲るつもりでやっています。日本一に自分が貢献したいという思いはすごく強くなりましたし、毎日今年が勝負、という気持ちでいます」
「大阪桐蔭戦士」は、まだまだ輝きを失っていない。
松尾の目は今、希望と野望に満ちあふれている。